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東京高等裁判所 平成10年(行コ)65号 判決 1999年7月15日

控訴人

共立酒販株式会社

右代表者代表取締役

古市滝之助

右訴訟代理人弁護士

井浦謙二

被控訴人

静岡税務署長 小林義彦

右指定代理人

加藤裕

井上良太

服部正邦

佐藤信吉

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が平成四年七月二日付けで控訴人に対してした酒類販売業免許の拒否処分は、これを取り消す。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨

第二当事者の主張

当事者の主張は、次のとおり訂正、付加するほか、原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決の事実摘示の訂正

1  原判決四頁八行目に「酒類販売をしようとする者」と、八頁一行目に「酒類の販売をしようとする者」とあるのをいずれも「酒類の販売業をしようとする者」と改める。

2  同六頁一二行目、七頁一二行目、二〇頁九行目に「酒類製造業者」とあるのをいずれも「酒類製造者」と改め、七頁六行目から七行目にかけて「納税業者である酒類製造業者」とあるのを「納税義務者である酒類製造者」と改め、二〇頁六行目から七行目にかけて「納税者である酒類製造業者」とあるのを「納税義務者である酒類製造者」と改め、二一頁五行目に「製造業者」とあるのを「製造者」と改める。

3  同一〇頁一行目を「2 酒税法一〇条一一号の合憲性について」と、二三頁一行目を「2 酒税法一〇条一一号の違憲性について」とそれぞれ改める。

4  同一七頁一行目に「三二八場」、二四頁五行目に「三二八」とあるのをいずれも「三三二場」と改める。

二  控訴人の追加主張

1  平成元年取扱要領について

(一) 従前適用されていた昭和三八年取扱要領(昭和三八年一月一四日付間酒二―二「酒類の販売業免許等の取扱について」国税庁長官通達の別冊「酒類販売業免許等取扱要領」をいう。)は、所轄税務署長において、小売販売地域内の酒類の総販売数量及び総世帯数を基に計算した数値が別に定める小売基準数値又は基準世帯数のいずれかを上回る場合には、原則として、酒類の販売業をしようとする者に対し、免許を付与することができるとしていたが、このうちとくに小売基準数量要件は、需給のバランスを直接的に示すのみならず、人口一人当たりの酒類消費量の増減を反映させるものとして重要であった。

ところが、平成元年取扱要領(平成元年六月一〇日付間酒三-二九五「酒類の販売業免許等の取扱いについて」の別冊「酒類販売業免許等取扱要領」及び同日付間酒三-二九六国税庁長官通達「一般酒類小売業免許の年度内一般免許枠の確定の基準について」をいう。)は、小売基準数量要件及び基準世帯数要件を用いず、基準人口要件のみを用いることとしたが、そのために、需給のバランスを間接的にしか示すことができなくなり、かつ、人口一人当たりの酒類消費量の増減を反映することができなくなったから、平成元年取扱要領は、酒税法一〇条一一号の要件を判断する上で合理性がない。

(二) 昭和三八年取扱要領と平成元年取扱要領とを比較すると、両者の小売販売地域は変更されているが、小売販売地域の格付はほとんど変更されていない。

ところで、昭和三八年取扱要領における基準世帯数は、A地域が三〇〇世帯、B地域が二〇〇世帯、C地域が一五〇世帯とされていたところ、平成元年取扱要領における基準人口は、A地域が一五〇〇人、B地域が一〇〇〇人、C地域が七五〇人とされているから、一世帯当たりの平均人数を五人とすると、両者の要件は同じになる。しかし、一世帯当たりの平均人数は平成四年では二・九一人であるから、右の基準人口は不当に多い。このために、平成元年取扱要領は、昭和三八年取扱要領の下における免許枠を四〇パーセント削減することとなったから、不合理である。

(三) したがって、平成元年取扱要領及びこれに従ってされた本件処分は、結局、酒税法一〇条一一号に違反し、ひいては憲法二二条一項に違反する。

2  静岡市の特殊性について

静岡市は、昭和二三年以降周辺町村との合併を繰り返し、その面積は以前の面積の約一一倍となった。したがって、たとえ静岡市が人口三〇万人以上の市としてA地域に該当するとしても、その中には実質的にはB地域又はC地域に該当する地域が混在しているところ、本件申請地は旧美和村という実質的にはB地域に該当する地域であるから、本件申請の許否に当たっては、このような実情に合った弾力的運用が要求される。しかるに、そのような運用をしなかった本件処分は、酒税法一〇条一一号に違反する。

三  被控訴人の反論

1  控訴人の追加主張1について

争う。

(1) 酒類の消費数量は全体として伸びつつあるが、人口一人当たりの酒類の消費数量はそれほど変化がないし、消費金額も消費数量ほど伸びないことに照らすと、昭和三八年取扱要領のただし書を廃止した上で小売り基準数量という形式的、固定的な基準によって免許を付与するとすれば、酒類の需給の均衡を破るおそれがある。

(2) 一定地域における酒類の消費は、当該地域に居住する人口と密接な関係をもっているし、その人口は逐年公表され、客観的に明らかであるから、昭和三八年取扱要領よりも平成元年取扱要領の方が妥当である。

2  控訴人の追加主張2について

争う。

理由

第一本件処分

控訴人の本件申請に対して、被控訴人が平成四年七月二日本件処分をしたことは、当事者間に争いがない。

第二酒販免許制度の合憲性について

一  酒販免許制度の合憲性の審査基準について

次のとおり付加、削除するほか、原判決の二六頁八行目から二九頁五行目までを引用する。

1  原判決二六頁八行目に「何人も」とある次に「、」を加える。

2  同二七頁二行目に「必要である」の次に「(最高裁昭和五〇年四月三〇日大法廷判決・民集二九巻四号五七二頁参照)」を加える。

3  同二九頁二行目の「しかも、」から五行目の終わりまでを削除する。

二  酒税法九条一項の合憲性について

1  酒税法が酒類販売業につき免許制を採用したのは、納税義務者である酒類製造者に酒類の販売代金を確実に回収させ、最終的な担税者である消費者に対する税負担の円滑な転嫁を実現することを目的として、これを阻害するおそれのある酒類販売業者の酒類の流通過程への参入を抑制し、酒税の適正かつ確実な賦課徴収という重要な公共の利益を図ろうとしたものと解される。

確かに、証拠(甲一三、一九、二八、三七、三八、五七ないし六三、七〇、七一、七六ないし七八、一三三、一三四、乙五の2、八)及び弁論の全趣旨によれば、(1) 酒税収入の国税収入全体に占める割合は、酒販免許制度が採用された昭和一三年当時約一三・四パーセントであったが、平成三年度には一般会計において約三・三パーセント(特別会計を含めると、約三・一パーセント)となり、平成四年度には一般会計において約三・六パーセント(特別会計を含めると、約三・四パーセント)となったこと、他方、(2) 酒税の収入総額は、年々増加し、昭和六三年には、約二兆二〇〇〇億円となり、平成二年度から平成四年度の間もそれぞれ約一兆九〇〇〇億円を超え、国税収入の中で五番目に多額であること、(3) 酒類の標準的な小売価格に占める酒税の割合は、別表1のとおり極めて高率であることがそれぞれ認められる。

このように、酒販免許制度の採用後、社会経済の状況や税制度の変化に伴い、酒税の国税収入全体に占める割合等は相対的に低下してきているが、本件処分当時(平成四年七月二日)においても、なお酒税の収入総額が多額であって、販売代金に占める酒税比率も高率であること、酒税の賦課徴収に関する仕組み自体がその合理性を失うに至っているとはいえないことなどからすると、酒税の徴収のため酒類販売業免許制度を存置させていたことが、立法府の政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱するもので著しく不合理であるとまで断定することはできない。

そうすると、酒税法九条一項の規定が憲法二二条に違反するということはできない(最高裁平成一〇年七月一六日第一小法廷判決・裁判集民事一八九号一五五頁参照)。

2  控訴人の主張について

原判決三三頁六行目から四〇頁二行目までを引用する。ただし、原判決三四頁四行目から五行目にかけて、三六頁三行目、同頁一〇行目から一一行目にかけて「酒類製造業者」とあるのをいずれも「酒類製造者」と改める。

三  酒税法一〇条一一号の合憲性について

1  酒税法一〇条一一号と憲法二二条一項

(一) 酒税法一〇条一一号は、「酒税の保全上酒類の需給の均衡を維持する必要があるため…酒類の販売業免許を与えることが適当でないと認められる場合」には、「税務署長は、免許を与えないことができる。」と規定する。

その趣旨は、免許の申請者が参入することにより申請に係る小売販売地域における酒類の需給の均衡が破れて供給過剰となった場合には、酒類販売業者の経営の基礎が危うくなり、その結果、酒類製造者による酒類販売代金の回収に困難を来し、酒税の適正かつ確実な徴収に支障を生じるおそれがあることから、新規の参入を調整することによって、供給過剰となる事態を避けようとしたものと解される。したがって、右規定は、酒類販売業につき免許制を採用した立法目的を達成するための手段として、合理性を有するものということができる。

そうすると、酒税法一〇条一一号の規定が、憲法二二条一項に違反するものということもできない。

(二) もっとも、酒税法一〇条一一号の規定は、右のとおり、立法目的を達成するための手段として合理性を認め得るとはいえ、(1) 申請者の人的、物的、資金的要素に欠陥があって経営の基礎が薄弱と認められる場合にその参入を排除しようとする同条一〇条の規定と比べれば、手段として間接的なものであることは否定し難いところであり、かつ、(2) 「酒類の需給の均衡を維持する必要がある」、「免許を与えることが適当でない」という抽象的な文言をもって規定されているから、右の要件を拡大して解釈適用するときは、前記立法目的を逸脱して、事実上既存業者の権益を保護するため新規参入者を規制することにつながり、憲法の前記規定に違反する疑いを生ずる。したがって、酒類販売業の免許を拒否するには、前記立法目的に照らして、これらの要件に該当することが具体的事実により客観的に根拠付けられる必要がある(最高裁平成一〇年七月三日第一小法廷判決・判例時報一六五二号四三頁、前記最高裁平成一〇年七月一六日判決参照)

2  控訴人の主張について

控訴人は、酒税法一〇条一一号の規定は、既存業者の私的利益を保護するために新規業者の参入を制限するものである旨主張するが、同号の規定は、右に説示したとおり、酒税を訂正かつ確実に徴収するための合理的な手段であって、たとえ同号を適用した結果として既存の酒類販売業者の私的利益が保護されることがあったとしても、それはいわば反射的効果ないし副次的効果にすぎないから、その故をもって同号の規定に合理性がないということはできない。

第三本件処分の適法性について

一  平成元年取扱要領について

1  平成元年取扱要領の制定経過、内容等

抗弁3、(一)、(1)記載の事実(需給要件の認定基準と免許申請に対する審査手続)は、いずれも当事者間に争いがなく、右事実に証拠(甲一〇六、二三〇、乙一、二の1、2、八ないし一〇、二三)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

(一) 酒販免許制度については、酒税法一〇条各号該当性の具体的な判断の基礎となる内部基準として、これまで昭和三八年取扱要領が設けられ、これに従った運用がされてきたが、平成元年取扱要領は、これを全面的に改正したものである。

(二) 酒税法一〇条一一号該当性の認定基準として、昭和三八年取扱要領は、小学校区等に相応する小売販売地域内の酒類の総販売数量及び総世帯数を基に計算した数値が別に定める小売基準数量又は基準世帯数のいずれかを上回る場合に限り免許を付与することができることとしながら、そのただし書において、右要件に合致しても免許を与えない場合があることを規定していた。

平成元年取扱要領は、昭和三八年取扱要領制定以降の社会経済の変化に即応し、制度運営の透明性及び公平性を一層確保することを目的として右認定基準を改正したものである。

すなわち、平成元年取扱要領は、昭和三八年取扱要領における前記ただし書条項を全面的に削除するとともに、モータリゼーションの進展等を考慮して小売販売地域を従前より広域(原則として市区町村)とした上、小売販売地域をその規模や人口密度によって三段階に格付して基準人口(A地域一五〇〇人、B地域一〇〇〇人、C地域七五〇人)を設定し、当該小売販売地域の人口をその基準人口で除して得られる基準人口比率から既に免許のある販売場の数を控除して、新たに免許を付与し得る販売場数の計算値を求め、これをおおむね五年で付与するために五で除するなどして、当該小売販売地域の当該年度内の一般免許枠を確定し、その枠内で免許を付与することを原則とし、右免許枠以上の申請があるときは、抽選により審査順位を定めるものとした。また、その例外的取扱いとして、(1) 右の基準人口を採用することが適当でないと認められる場合には、国税庁長官に上申の上、二〇パーセントの枠内で基準人口を変更することができ、(2) 新たに住居地域、商業地域等が造成される場合、高層建築物が集積し昼間人口が住民登録人口に比べて特に多い場合など所定の場合であって、小売販売地域内の特定の地区又は場所において特に一般酒類小売業免許を付与する必要があると認めるときは、国税局長に上申して、特例免許指定地区を設けた上、年度内特例免許枠を定めて免許を付与することができ、(3) 右以外の場合で、人口又は事務所の集中する地区又は場所であって年度内特例免許枠を設けて免許を付与することが合理的と判断されるときは、国税庁長官に上申して、右と同様の措置を執るものとした。

(三) 平成元年取扱要領が小売販売地域を三段階に格付し、それぞれの基準人口を前記のとおり定めたのは、当時の各種統計資料に基づく酒類小売業者の経営実態を参酌したものである。

すなわち、一般酒類小売業の販売場数の推移は、別表3記載のとおりであり、昭和五二年から昭和六二年までの間緩やかに増加していた。また、その間の国民一人当たりのアルコール消費量、酒類消費金額の推移は、別表2記載のとおりであり、比較的緩やかな伸びにとどまっていた。

そして、昭和六二年度において全国の新規免許を付与した小売販売地域について、付与後の販売場数及び人口をみると、別表4記載のとおりであり、これによると、一販売場当たりの平均人口は、A地域が一五六七人、B地域が一一二六人、C地域が八七八人であった(控訴人は、新規免許を付与した小売販売地域は、既存小売業者が少ない地域であるから、これを調査対象として基準人口を設定したことは不当であるというが、新規免許を付与した小売販売地域であっても、新規免許付与後の販売場数は、他の小売販売地域の販売場数より少ないということはできないから、これを一つの資料として基準人口を設定したことに、特段の不合理はない。)。

他方、人口一人当たりの酒類消費金額は、別表2記載のとおりであり、昭和六二年当時の酒類消費金額は約五兆三〇二六億円であるから、これを右当時の日本の総人口(約一億二一〇六万人)で除すと人口一人当たりの酒類消費金額は、四万三八〇一円となる。そして、昭和六二年当時のA、B、C各地域の酒類小売業者の平均売上額は、別表5記載のとおりである。そうすると、その当時の酒類売上金額を維持するために必要な人口は、A地域が一五〇六人、B地域が一〇五〇人、C地域が六一二人となる。

そこで、平成元年取扱要領は、これらの数値等を参酌した上、基準人口を前記のとおりA地域一五〇〇人、B地域一〇〇〇人、C地域七五〇人と定めた。

2  平成元年取扱要領の合理性

(一) 以上によれば、平成元年取扱要領は、昭和三八年取扱要領における問題点を是正することを目的として改正されたものであり、実態に合わせて算出された基準人口比率によって酒類の需給の均衡を図ることとしたほか、前記ただし書条項を全面的に削除し、逆に、所定の基準人口に適合しない場合であっても、免許を付与することができる道を開いたものと解されるから、恣意を排するとともに、柔軟な運用の余地も持たせたものとみることができる。そして、酒類の消費量は、何よりも当該販売地域に居住する人口の大小によって左右されるものと考えられるから、これを基準として需給の均衡を図ることは、合理的な認定方法ということができる。

(二) したがって、平成元年取扱要領における酒税法一〇条一一号該当性の認定基準は、当該申請に係る参入によって当該小売販売地域における酒類の供給が過剰となる事態を生じさせるか否かを客観的かつ更正に認定するものであって、合理性を有するので、これに適合した処分は原則として適法というべきである。

(三) もっとも、前記第二、三、1、(二)に説示したところから明らかなように、酒販免許制度が職業選択の自由に対する重大な制約であることにかんがみると、平成元年取扱要領についても、その原則的規定を機械的に適用しさえすれば足りるものではなく、事案に応じて、各種例外的取扱いをも積極的に考慮し、弾力的にこれを運用するよう努めるべきである(前記最高裁平成一〇年七月一六日第一小法廷判決参照)。

3  控訴人の主張について

(一) 控訴人は、平成元年取扱要領において小売基準数量要件を撤廃したのは不当であると主張する。

思うに、一定地域における酒類の消費が人口と最も密接な関係を有することは否定できないが、被控訴人の作成した別表2によっても、人口一人当たりの酒類(純アルコール換算)の消費数量は緩やかに増加し、人口一人当たりの酒類の消費金額も物価上昇率を考慮に入れてもなお緩やかに増加しているから、必ずしも人口基準のみで酒類の消費の実情を完全に把握することができるということはできない。しかし、平成元年取扱要領は、さきに認定したとおり、(1) 原則として酒類の小売販売地域を各市町村に拡大し、(2) <1>各種統計資料を参酌した結果、やや低めに基準人口を設定し、<2>この基準人口が適当でないと認められる場合には二〇パーセントの範囲内で基準人口を変更して、年度内一般枠を設けた上、この免許枠以上の申請があるときは抽選により審査順位を定めるが、(3) 人口の集中する地区又は場所等について必要があると認めるときは、特例免許指定地区を指定し、年度内特例免許枠を設けることができるとする一方、(4) 昭和三八年取扱要領における前記ただし書条項を採用しないこととした。そうすると、平成元年取扱要領は、酒類の販売業免許を与えるかどうかの基準を比較的容易に動向を把握することができる人口に求めて、制度運用の透明性と公平性の向上を図る一方、所定の基準人口に達しない場合にも免許を付与することができる道を開き、かつ、昭和三八年取扱要領の実情に沿わなくなったところを改めて、免許付与の基準の簡素化、明確化に努めているものであって、合理性を有するものというべきである。右によれば、平成元年取扱要領が小売数量基準を撤廃した一事をもって、直ちにこれを不合理なものということはできない。

(二) 次に、控訴人は、平成元年取扱要領が、一世帯を五人として計算して、不当に基準人口を多くし、免許枠を大幅に削減したと主張する。

しかし、昭和三八年取扱要領は、小売販売地域をA、B、C、Dの四段階に格付けしていたから、平成元年取扱要領と同じ格付をしていたということはできないし、平成元年取扱要領では、前記1、(三)認定のとおり基準人口を設定したものであって、一世帯当たりの人数を基に基準人口を設定したものではないから、控訴人の右主張は、その前提において失当であり、採用することができない。

(三) 控訴人は、昭和三八年取扱要領における基準世帯数要件を当てはめた販売場数と平成元年取扱要領における基準人口を当てはめた販売場数とを対比し、平成元年取扱要領は免許枠を削減していると主張する。しかし、昭和三八年取扱要領は、基準世帯数要件を充足することをいわば免許付与の必要条件としているにすぎず、十分条件としている訳ではない(昭和三八年取扱要領ただし書条項参照)のに対し、平成元年取扱要領は、基準人口比率を満たす販売場数の限り当然免許を付与することにした上、更に特例を設ける余地を認めているから、両者の性格は相当異なる。したがって、両者を単純に比較して免許枠を削減したかどうかを論ずることは困難である。控訴人の右主張は、採用することができない。

二  本件処分の適法性について

1  本件処分と酒税法一〇条一一号

本件申請にかかる小売販売地域である静岡市は人口三〇万人以上の市であるから、小売販売地域の格付けは、A地域(基準人口一五〇〇人)であるところ、同市の平成三年三月三一日当時の人口は四七万〇八三八人である(乙二二)から、同市の基準人口比率は三一四となる。しかし、同年八月三一日時点における同市の一般酒類小売免許場数三四六から休業場数一四を控除した既存販売場数は三三二場あった(乙二二)から、本件処分当時において、既に一般酒類小売業の年度内一般免許枠はなかったことが明らかである。

そして、甲一、乙一六及び弁論の全趣旨によれば、静岡市は面積も広く、昼間人口も多い上、本件申請地にはかつて酒類販売場が存在したが、昭和五七年三月にその酒類販売業の免許が取り消されたことが認められるが、他方、さきに認定したとおり、平成元年取扱要領が原則として酒類の小売販売地域を各市町村に拡大したことには合理性があり、しかも本件処分当時に静岡市には基準人口比率を超える販売場が一八存在していたばかりでなく、右各証拠によれば、本件申請地を中心として、直線距離にして半径六〇〇メートル以内の地点に販売場が二店、道路沿いにして約一〇〇〇メートル以内の地点に販売場が四店それぞれ存在していたことが認められる。そうすると、本件申請地所在の地区について年度内特例免許枠を設けるべき特段の事情があるということはできないし、前記一、2、(三)記載の例外的取扱いないし弾力的運用をすべきものというに足りない。

しかるところ、控訴人が本件免許申請をしたため、被控訴人は、平成元年取扱要領の認定基準に基づき、本件申請地において申請にかかる酒販免許を付与した場合、当該販売地域における酒類の需給の均衡を破り、ひいては酒税の確保に支障をきたすおそれがあると判断して本件処分をした(甲二、乙二二)。

以上によれば、本件処分は、酒税法一〇条一一号に従ってされたものであり、本件処分に違法なところはない。

2  控訴人の主張について

(一)(1) 控訴人は、静岡市はA地域に属し、基準人口は一五〇〇人とされるが、右基準人口で日本全国の人口を除すと、日本全体で約八万の販売場の免許しか付与できなくなるから、遡って右基準人口に合理性がないと主張する。しかし、A地域の基準人口で日本全国の人口を除して販売場の数を算出することに合理的な意義を見出すことはできない(なお、前記一、3、(三)参照)。

また、控訴人は、全国における一販売場あたりの平均人口八七五人を静岡市の基準人口とするのが適正であると主張するが、平成元年取扱要領によれば、A地域は人口の密集するいわゆる都市部を、B地域はA地域以外の都市部を、C地域はそれ以外の地域をそれぞれ想定しており、これらの地域ごとに物価水準、人件費等が異なることは明らかであって、平成元年取扱要領が小売販売地域をA、B、Cの三地域に格付したこと及び静岡市をA地域とし、その基準人口として一五〇〇人を当てはめたことには合理性がある。控訴人の右主張は、採用することができない。

(2) 控訴人は、本件申請地から半径六〇〇メートル以内に酒類販売店がないとして、控訴人の出店が酒類の需給の均衡を崩すことにはならないと主張するが、そもそも被控訴人は、平成元年取扱要領の免許の要件のうちの「場所的要件」を充足していないとして本件処分をしたのではなく、「需給調整上の要件」を充足していないとして本件処分をしたものであるから、たとえ控訴人の主張する事実が認められるとしても、その故をもって直ちに本件処分を違法であるということはできない上、さきに認定したとおり、本件申請地を中心として直線距離にして半径約六〇〇メートル以内に酒類販売店が二店あることが認められるから、控訴人の主張はその前提を欠き失当である。

(二) 控訴人は、本件処分は、酒類の安売りを慣行する控訴人の参入を不当に制限するものであると主張するが、既にみたとおり、本件処分は、結局酒税法一〇条一一号に従ってされた適法な処分であり、控訴人による他の酒類販売業の免許申請とほぼ同時期に同一の理由によって本件申請が拒否されたという控訴人主張の事実を考慮しても、本件処分をもって恣意的な処分であるということも差別的な処分であるということもできない。

(三) さらに、控訴人は、本件処分にはその申請から九か月経過してなれた違法があると主張するが、その主張する程度の期間の経過があったことをもって直ちに本件処分を違法ということはできない。

(四) 控訴人は、そのほかにも本件処分の違法、違憲の主張をするが、これらの主張は、いずれも独自の見解に立つものであって、採用することができない。

第四結論

以上のとおり、控訴人の請求は理由がないからこれを棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結の日 平成一一年三月二三日)

(裁判長裁判官 増井和男 裁判官 岩井俊 裁判官 小圷眞史)

別表1 酒税等の負担率の推移

<省略>

別表2 酒類消費数量等の推移

<省略>

別表3 第17表 酒類販売業免許場数の推移

<省略>

別表4

免許の付与状況(62年度)

<省略>

別表5

小売酒販店の経営状況

<省略>

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